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大阪高等裁判所 昭和28年(ラ)109号 決定 1954年1月21日

抗告人 寺田太郎左衛門

訴訟代理人 名倉宗一

主文

原決定を取消す。

本件仮処分申請は之を却下する。

申請費用及び抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の要旨は末尾添付の記載のとおりであるが、その判断に先ち、職権を以て原決定を調べてみると、原決定の理由欄には単に「申請人の本件仮処分申請は、保全の必要について主張及び疏明が充分でないから理由なしとして却下すべきものと考える」との記載があるに止まり抗告人(申請人)の主張の内容の記載は全く之を欠いている。而して判決の記載要件に付ての民事訴訟法第百九十一条は同法第二百七条に依り、決定及び命令に付ても其の性質に反しない限り之を準用すべきものであつて、訴訟指揮や執行処分のような処分的性格の裁判に付て迄一々事実及び争点の記載を要求することは固より其の性質に反するものであるが、当事者の申立を却下する裁判其の他抗告に服する裁判には其の性質上右の記載を必要とするものと解しなけければならない。従つて原決定は此の点に於て法律に違背しているから之を取消すべきものと認める。

而して本件に付ては直ちに仮処分申請の当否に付裁判を為すに熟するものと認められるから、抗告人の仮処分申請理由に付て判断すると、抗告人の主張するところは同人が別紙目録記載の建物を京都地方裁判所昭和二十六年(ケ)第三五号不動産競売事件に於て競落し昭和二十七年十一月一日競落許可決定を受け同月十二日所有権移転登記を完了したところ別紙抗告の原因記載の理由があるから同抗告の趣旨記載の如き仮処分決定を求めると謂うにあつて要するに所謂債権者に満足を与える仮処分を求めるものであるが仮処分被告申請人岡本重一が其の賃借物件を濫りに他に転貸するなど著しく信義に反する行為のあつたことの疏明は抗告人提出の各証書及び原審に於ける抗告人(申請人)審訊の結果に依つても到底十分と謂えないから右仮処分は失当として却下せらるべきものである。

仍て民事訴訟法第四百十四条第三百八十七条第九十六条第八十九条に則り主文のとおり決定する。

(裁判長判事 朝山二郎 判事 西村初三 判事 沢井種雄)

抗告の趣旨

原決定を取消し本件家屋(添付目録第二号記載)に対する被申請人の占有を解き申請人の委任する京都地方裁判所執行吏をしてこれを保管せしめる。執行吏は現状を変更せざることを条件として申請人に之れを使用せしめることを得。

右趣旨の御裁判を求める。

抗告の原因

一、原決定は却下の理由として保全の必要についての主張及び疏明が充分でないとして居るが此の点について申請人は承服することが出来ない。即ち(一)保全の必要についての主張は充分である。詳述すれば仮処分の目的たる部分は被申請人に於て競売手続開始後所有者の承諾なくしてこれを郡是産業株式会社に転貸し月額三千円の賃料を受取り更に谷村清太郎上田ヒサを他の部分に居住せしめる等の行為を為し申請人が折角苦心して郡是産業株式会社より明渡を受けた仮処分の目的場所も何時他人に転貸するかの危険性あるものにして現に被申請人は該場所に於て営業を為すと称するも実情は賃料の支払さえも出来ない状態であるから他人と共同営業を為す可能性充分である。

更に申請人が該場所を使用する必要のあることは申請人の養子寺田誠治が独立営業を為すため営業所として使用する必要のあること並に申請人自身が住居に使用する必要が生じて居ることも本人訊問の結果明瞭である。(二) 疏明は充分為されて居る。即ち申請人の提出した各疏明書類によれば其疏明は充分であつて申請人としてはこれ以上の疏明の方法はない。

二、以上の次第で申請を却下した決定に対し抗告を為す次第である。

(別紙目録省略)

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